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日本版ESOP~引当金の計上? 引当計上要否の実務上のポイントなど

実務上、引当金計上の要否を検討する必要があります。

実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(以下、対応報告と呼びます)の8(3)において、“信託の終了時に、信託において借入金の返済や信託に関する諸費用を支払うための資金が不足する場合、債務保証の履行により企業が不足額を負担することとなる。信託終了時に企業が信託の資金不足を負担する可能性がある場合には、企業会計原則注解(注18)に従い、負債性の引当金の計上の要否を判断する。”

とされています。そこで、今回は当該負債性の引当金の計上の要否について考えて生きたいと思います。

1.企業会計原則注解(注18)とは?

企業会計原則注解(注18)においては、引当金についての説明がなされており、そこに、一般的に説明に使われるいわゆる引当金の4要件が説明されております。その内容は、

①将来の特定の費用又は損失であって、
②その発生が当期以前の事象に起因し、
③発生の可能性が高く、
④かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合

という4要件に該当すれば、当期の負担に属する金額を当期の費用又は損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部又は資産の部に記載するものとする。

とされており、最後に“発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。”とされています。

つまり、従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引(以下、当該ESOP信託と呼ぶ)に関しても、場合によっては、引当金を計上することが必要になります。

 

2.注18に照らした引当金の必要性について

(1)4つの要件について

①将来の特定の費用又は損失であって②その発生が当期以前の事象に起因し、という前段二つの要件に関しては、あまり争いが無く該当することになるのではと考えます。

そのため実務上、引当計上要否のポイントとなるのは、③発生の可能性が高く、④その金額を合理的に見積ることができる場合という要件になると考えます。

(2)発生の可能性について

信託期間における当期末以前の状況において、当初計画した株価より下回る状況が続いた場合、最終的に債務保証の履行により企業が不足額を負担する可能性が高まってきます。

信託期間が長期間で、残余期間も長期間ある場合に、これらの発生可能性を判断することは困難を要しますが、ある程度、残余期間が短くなってきた場合で、その時の株価の状況によっては、その発生可能性についても高いと判断することになるのではないと考えられます。

(3)金額を合理的に見積もることができるか

最終的に企業が負担すべき不足額というのは、特に残余期間が長い場合などにおいては、合理的に算定することは非常に困難を要するといえます。他方、残余期間が短く、過去の信託期間において株価が低迷している場合、過去において生じた不足金に関しては、少なからず金額を見積もることができます。

なお、これは個人的な意見になりますが、上場株式の株価について、適切な評価を表していないとか、今は高いとか、今は安いとか議論になることがあります。勿論、個々の考えがあるのでそれ自体に問題は無いのですが、市場の理論からすると、現在の株価がまさに適正な市場価格そのものなのだと個人的には考えます。つまり、その考え方からすると、金額を合理的に見積もることが出来ないというのは、確率論の話はありますが、少し苦しい理由のように考えます。

(4)監査・保証実務委員会実務指針第61号について

監査・保証実務委員会実務指針第61号「債務保証及び保証類似行為の会計処理及び表示に関する監査上の取扱い」(以下「監保実第61号」という)によれば、ある一定の要件を満たした場合には、債務保証損失引当金を計上したり、その内容を注記したりする必要があります。ESOPについても、ある一定の要件に該当する場合には、当該実務指針にしたがい処理する可能性が生じます。

 

3.他社の開示状況について

2018年3月期決算の会社で、有報サーチで、“ESOP”ワードで検索すると、257社が該当し、追加情報内で検索すると188社が該当します。これに対して、引当金の計上基準(連結、個別)の中で、“ESOP”と検索すると、該当する会社はわずか7件、貸借対照表関係注記(連結、個別)の中で、“ESOP”として該当する会社は、わずか5社となりました。

これらの詳細について精査したわけではありませんので、確かなことはいえませんが、おおよそ推察するに、追加情報で検索された188社というのは、おそらく何らかの形でESOP信託をしているのだろうと考えられます。この点、追加情報(連結、個別)に“従業員等に信託を通じて自社”というワードで検索をしても206社となったため、おおよその整合性があると思います。

これに対して、引当金として会計方針の注記をしている会社はわずか7社、注記している会社はわずか5社と極めて少ない結果だと、個人的には思いました。

この要因としては、ここ数年株価の動向が良い状況であったからとか、そもそも私自身の検索の方法が適切でなかったとか、会社規模に対して重要性が極めて乏しいなど、色々な原因が考えられますが、実務としてこれらを処理しているケースが少ないのはある程度推察されると考えられます。

 

4.まとめ

さて、日本版ESOPの引当金の要否等について、色々分析を行ってきましたが、まとめると以下のとおりと個人的には考えます。

〇実務対応報告第30号に記載の通り、一定の要件を満たすと引当金の計上が必要になる。
〇引当の要否について実務上のポイントになるのは、その発生可能性。
〇発生可能性の判断に重要なのは、信託の残存期間であり、残存期間が短くなればなるほど、潜在的に存在する損失等が顕在化する可能性が高まってくる。
〇監査・保証実務委員会実務指針第61号にしたがい、保証の内容等を注記している会社もあり。
〇他社の動向としては(2018年3月期の会社においては)、あまりこれらを処理している会社は多くは検索できなかった(私の検索では)

 

ということになると思います。アベノミクスにもかげりが見えてきて、今後の株価の動向も非常に厳しい状況も懸念されます。その場合には、これらESOPに対して、会社がある一定の資金を負担する可能性も高くなるので注意が必要になります。

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