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分析的実証手続とは? 監査基準委員会報告330における4つの要件もふまえて

分析的実証手続きは詳細テストと同じ実証テスト?

監査基準委員会報告書330に実証テストとして、「詳細テスト」と「分析的実証手続」という二つの手続が示されています。詳細テストは、取引記録や勘定残高、開示等に関して、原始証票たる請求書や預金通帳などと照合することにより、その妥当性を検証する手続きということで、比較的馴染みやすいと思いますが、分析的実証手続とはどのような手続きでしょうか。

今回は、この分析的実証手続という少しわかりにくい手続きについて、委員会報告に記載されている要件も含め解説をしていきたいと思います。

 

分析的実証手続ってなに?

委員会報告風に説明するのであれば、その手続としては、

関連する財務または非財務データに基づいて、帳簿金額に対する期待値を算出する。

期待値の算出に使用するデータは、例えば公表された統計資料などのように、監査対象金額から独立し、合理的に妥当と認められるデータでなければならない。そうでない場合にはそのデータを別途検証することが必要となる。

期待値と帳簿金額の差異で理由の説明なしに受け入れてよい最大値、すなわち「許容金額」を決定する。

算出した期待値と帳簿金額を比較し、その差異につき調査が必要か否かを決定する。

 

というステップにより実施される監査手続と説明することが適切といえますが、簡単に説明するのであれば、ある検証したいものがあるときに、自身で一定の推定をして、その推定結果と実際の結果を比較することにより、妥当性を検証する手続きということになります。

例えばなのですが、以下の前提があるとします。

・機械の減価償却方法は新定率法で、全て耐用年数は8年

・すべての機械は前期以前の取得で、取得後7年を経過していない。

・定率法の8年の償却率は、0.25とし、期首の機械の簿価は100百万円だとする。

このような前提条件があれば、当期における減価償却費は25百万円であると推定ができ、帳簿の機械の減価償却費がこの金額と近似している場合には、当該減価償却費は適切だということになります。

具体的な説明をすると、そこまで難しくないとは思いますが、実はここで注意しないと問題となる点があります。その点について、解説していきたいと思います。

 

分析的実証手続きを利用する場合に要求される事項(監査基準委員会報告330)

監査基準委員会報告書330においては、当該分析的実証手続きを実施する際の必要事項として、以下の点が必要とされています。

(1) 特定のアサーションに関して評価した重要な虚偽表示リスクと対応する詳細テスト(該当 する場合)を考慮に入れ、これらのアサーションに対して特定の分析的実証手続が適切かどうかを判断する。

(2) 利用可能な情報の情報源、比較可能性及び性質と目的適合性並びに作成に係る内部統制を 考慮に入れて、計上された金額又は比率に対する監査人の推定に使用するデータの信頼性を評価する。

(3) 計上された金額又は比率に関する推定を行い、当該推定が、個別に又は集計して重要な虚偽表示となる可能性のある虚偽表示を識別するために十分な精度であるかどうかを評価する。

(4) 計上された金額と監査人の推定値との差異に対して、第6項により要求されるような追加的な調査を行わなくても監査上許容できる差異の金額を決定する。

 

つまり、上記の内容を満たしていない手続きであれば、それは監査委員会報告で認められている実証テストとしての分析的実証手続きではなく、単なる分析的手続きということになってしまうということです。また、監査手続きは調書に記載されていることが要件になるため、上記4つの要素に関する内容が調書に記載されていない場合には、監査委員会報告でいう分析的実証手続きにはならないということになります。

以外にこの点については、忘れがちなので注意が必要になります。

 

分析的手続と分析的実証手続の違いについて

分析的実証手続について、上記のように説明をしてきました。ここで似た手続きとして分析的手続きという手続きがあります。この大きな違いは何でしょうか。

誤解を恐れず説明するのであれば、分析的実証手続は、最初に説明したようにあくまで監査委員会報告で認められている実証テストであるのに対して、分析手続とは監査委員会報告330で認められている実証テストではないということになると思います。

これらの違いは一見、小さいようにも思えますが、実務的には非常に大きく、片方は内容をしっかり詳細に検討しているということに対して、片方は何となく間接的に検証をしているということにもなり、両者には大きな違いがあります。

実務的には、先に説明した4つの要件を満たしていなければ、単なる分析的手続きになってしまうため、留意が必要です。

以上

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