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企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部に関する会計基準」及び当初の改正趣旨などについて

平成18年に大幅に変更された貸借対照表の純資産の部に関して、当初の改正の趣旨や改正点などを、新旧比較する方法により、簡単に解説していきたいと思います。文中の説明は、いずれも改正時の時のコメントですので、ご留意ください。

 

☆改正の趣旨

そもそも「資本」とは、会社の所有者である株主に帰属する性質のものと理解されているが、近年「資本の部」に、本来の意味での資本とはやや異なる性質のものが計上されている(「その他有価証券評価差額金」、「土地再評価差額金」などの換算差額、連結貸借対照表における「為替換算調整勘定」)。また、現行の連結会計基準では「少数株主持分」は負債の部と資本の部の中間に独立の項目として表示するように定められているが、国際的な会計基準ではこうした中間区分を解消する趨勢となっている。

こうした状況の中で新会計基準は、株主に帰属する意味合いを強く持つ「資本の部」に代わって資産と負債の差額としての「純資産の部」という呼称を採用している。

 

☆改正の適用時期

平成18年4月1日以降開始事業年度より適用

 

☆適用対象企業

基本的には、全ての会社

 

☆適用初年度の取り扱い

期間比較の観点から、これまでの資本の部の合計に相当する金額を注記する。

会計基準の変更に伴う会計方針の変更として取り扱う必要がある。

 

☆旧基準との相違点のまとめ

項 目 従 来 純資産会計基準等
1)貸借対照表の区分 個別貸借対照表 資産の部、負債の部及び資本の部に区分する 資産の部、負債の部及び純資産の部に区分する
連結貸借対照表 資産の部、負債の部、少数株主持分及び資本の部に区分する 同上
2)貸借対照表の純資産の部(資本の部)の区分 個別貸借対照表 資本の部は、資本金、資本剰余金、利益剰余金及びその他の項目に区分する 純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に区分する
連結貸借対照表 同上 純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権及び少数株主持分に区分する
3)個別貸借対照表におけるその他資本剰余金の区分 資本金及び資本準備金減少差益や自己株式処分差益等その内容を示す科目で表示する 内訳を表示しない
4)個別貸借対照表における利益剰余金の区分 利益準備金、任意積立金及び当期未処分利益(当期未処理損失)に区分する 利益準備金及びその他利益剰余金に区分する。その他利益剰余金のうち、任意積立金等、株主総会又は取締役会の決議に基づき設定される項目は、その内容を示す科目をもって表示し、それ以外は繰越利益剰余金にて表示する
5)繰延ヘッジ損益 表示 資産の部又は負債の部 純資産の部の評価・換算差額等
税効果 税効果を調整しない 税効果を調整する
資本連結 親会社の子会社に対する投資と相殺消去される子会社の資本に含まれない 親会社の子会社に対する投資と相殺消去される子会社の資本に含まれる
6)新株予約権の表示 負債の部 純資産の部

なお、新株予約権については従来と同様に税効果会計の対象とはならない

7)少数株主持分の表示 負債の部と資本の部の中間における独立の項目 純資産の部

少数株主持分についても、従来と同様に税効果会計の対象とはならない

 

☆「純資産の部」の創設

従来、貸借対照表は「資産の部」、「負債の部」及び「資本の部」に区分されていたが、新会計基準では、「資産の部」、「負債の部」及び「純資産の部」に区分される。なお、連結貸借対照表の「少数株主持分」は従来負債の部と資本の部の間に独立項目として表示されていたが、新会計基準では「純資産の部」の一項目となる。

 

☆「純資産の部」の区分

「純資産の部」は「株主資本」、「評価・換算差額等」及び「新株予約権」に区分される(連結貸借対照表では「少数株主持分」も「純資産の部」へ)。

 

☆ 資本剰余金の区分

従来の個別貸借対照表では、資本剰余金は「資本準備金」、「その他資本剰余金」に区分の上、「その他資本剰余金」の内訳科目として「資本金及び資本準備金減少差額」や「自己株式処分差益」等の表示が必要であったが、新会計基準では内訳項目の表示は不要となっている(但し別途作成する「株主資本等変動計算書」で開示することになる)。

 

☆ 利益剰余金の区分

従来の個別貸借対照表では、利益剰余金は「任意積立金」及び「当期未処分利益(未処理損失)」に区分されていたが、新会計基準では「利益準備金」と「その他利益剰余金」に区分される。また、「その他利益剰余金」については「任意積立金」のように、その内容を示す科目をもって表示し、それ以外については「繰越利益剰余金」という科目で表示する。

 

☆ 新株予約権の表示

「ストック・オプション等に関する会計基準」では中間区分に計上することになっていたが、新会計基準では「純資産の部」に計上する。

 

☆ 繰延ヘッジ損益

従来デリバティブについてヘッジ会計を適用した際に計上する「繰延ヘッジ利益(又は損失)」は資産又は負債に計上されていたが、新会計基準では税効果を調整後の価額(繰延税金資産又は繰延税金負債を控除した後の金額)を「純資産の部」に計上する。

 

☆ 税効果会計の適用

評価・換算差額等については、これらに係る繰延税金資産又は繰延税金負債の額を控除して計上する。税効果会計の具体的適用については以下の通り。

法人税等について税率の変更等により繰延税金資産又は繰延税金負債の金額を修正した場合 → 「税効果会計基準」注解(注7)参照

繰延税金資産の回収可能性を見直した結果、繰延税金資産又は繰延税金負債の金額を修正した場合 → 「税効果実務指針」第23項但書き参照

その他有価証券評価差額金に対する税効果会計の具体的適用

→ 「その他有価証券の評価差額及び固定資産の減損損失に係る税効果会計の適用における監査上の取扱い」による

繰延ヘッジ損失に対する税効果会計の具体的適用

→ 「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」における例示区分1及び2の会社に加え、例示区分3及び4の但書きの会社についても回収可能性があるものとして判断する

為替換算調整勘定に対する税効果会計の具体的適用

→ 「為替換算調整勘定の資本の部計上に伴う税効果会計適用上の留意事項」による

土地再評価差額金に対する税効果会計の具体的適用

→ 「税効果実務指針」(「土地再評価差額金の会計処理に関するQ&A」を含む)による

 

☆ 資本連結における子会社の資本及び持分法の適用における被投資会社の資本

連結貸借対照表の作成に当たり、投資と相殺消去される子会社の資本

ⅰ.子会社の貸借対照表上の純資産の部における株主資本(個別貸借対照表修正による損益処理後)

ⅱ.子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における評価・換算差額等

ⅲ.子会社の評価差額

持分法の適用に当たり、被投資会社の資本は1)に準ずるものとする

 

☆ 在外子会社等の純資産換算

①親会社による株式の取得時における株主資本及び評価・換算差額等に属する項目

→ 取得時レート

②親会社による株式の取得後に生じた株主資本に属する項目

→ 発生時レート

③親会社による株式の取得後に生じた評価・換算差額等に属する項目

→ 決算時レート

④少数株主持分

→ 決算時レート

 

☆ 損益計算書

① 株主資本等変動計算書に剰余金の変動が表示されることに伴い、前期繰越利益以下の表示が削除となり、中間損益計算書の最後は、中間純利益(又は中間純損失)となる。中間連結損益計算書については、従来から前期繰越利益以下がないため、直接の影響はなし。

② のれんの償却額と負ののれんの償却額が生じる場合は、いずれかの金額の重要性が乏しい場合には相殺表示できる(中間連結財規66条1項、財規97条)。

 

☆ その他

①その他利益剰余金及び繰越利益剰余金のマイナス残高

②その他利益剰余金又は繰越利益剰余金の金額がマイナスとなる場合には、マイナス残高として表示する(従来は当期未処理損失としてプラス残高で表示)。

 

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