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分配可能額

株式会社は、株主に対して、剰余金の配当ができます(会社法453条)が、その配当額には様々な規制が存在しています。株式会社は営利を目的としており、株主利益保護の観点からは、剰余金の配当は最大限に保証されるべきですが、株主有限責任(会社法104条)のもとでは、規制なく剰余金の配当がなされると会社債権者の利害が害されてしまいます。従って、会社債権者保護の観点から、会社財産を維持する必要性があり、会社法において配当規制がなされています。
簡単に言うと、配当の決議は株主総会で行われますが、債権者は株主総会には出席しないので、債権者のいないところで規制なく配当金の決議がされると、債権者へ返済する財産がなくなってしまうので、そういうことがないように規制を設けているということです。

直接的な事前規制として、分配可能額による規制(会社法461条)と純資産額による規制があります。純資産額の規制とは株式会社の純資産額が300万を下回る場合には剰余金の配当はできない(会社法458条)というものです。ここでは、461条の分配可能額について説明していきたいと思います。

剰余金の配当を行う場合、株主に対して交付する金銭の帳簿価額の総額は、剰余金の配当が効力を生じる日における分配可能額を超えてはならない(会社法461条1項8号)とされています。その分配可能額の計算方法ですが、まず、その他資本剰余金とその他利益剰余金の合計額が基本となります。そこから、自己株式の帳簿価額と前期末以降に自己株式を処分している場合にはその対価の額を差引きます。さらに、その他有価証券評価差額金と土地再評価差額金ですが、これらが借方残の場合(マイナス)にはそれらを差引きます。貸方残(プラス)の場合は調整不要です。最後に、のれん等調整額(のれん、繰延資産)が大きい場合にはそれらを差引きます。ここでは自己株式の取扱いについて説明していきます。
なぜ、自己株式の帳簿価額を差引くかですが、自己株式の取得は株主への資本の払い戻しの性格を持っており、自己株式を株主から取得(株主の側からは株式を売却)したその時点で株主へ配当したものと同様の効果があるためです。そして、自己株式を処分した場合の対価を控除するのは、自己株式の処分によって分配可能額が増加してしまうからです。
具体的な数値で検討してみます。

その他資本剰余金 200
その他利益剰余金 200
自己株式    △100
分配可能額    300  その後自己株式を処分した時の数値の変化をみます。

(ケース1)自己株式帳簿価額50を100で処分した場合

現金 100 / 自己株式 50
その他資本剰余金 50

その他資本剰余金 250
その他利益剰余金 200
自己株式     △50
分配可能額    400  処分対価の100だけ増加してしまいます

(ケース2)自己株式帳簿価額50を20で処分した場合

現金 20 / 自己株式 50
その他資本剰余金 30

その他資本剰余金 170
その他利益剰余金 200
自己株式     △50
分配可能額    320  処分対価の20だけ増加してしまいます

つまり、自己株式の売却に係る処分差額の損益に関わらず、処分対価の額が分配可能額を増加させることになります。従って、分配可能額の計算において、制限なく自己株式の処分がなされると、分配可能額の増加がもたらされてしまうので、その対価の額が控除されるのです。既に利益が確定しているにも関わらず、期末日後の自己株式の処分によって分配可能額が変動することを防ぐことが趣旨となっています。

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