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棚卸資産の評価に関する会計基準のポイント解説(企業会計基準第9号)

棚卸資産の評価に関する会計基準(会計及び税務)のポイント解説~低価法も低下法も同様の考え方に?

棚卸資産の評価は会計基準と税法で考え方がそれぞれ異なります。現行の会計基準においては、企業会計基準委員会(ASBJ)から、平成18年7月に企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」が公表されており、これにしたがい処理をすることになります。これまでは、棚卸資産の評価基準として、低価法と原価法の選択適用が認められてきましたが、本会計基準適用後は、棚卸資産(通常の販売目的で保有する棚卸資産)の収益性が低下した場合には、帳簿価額を正味売却価額まで切り下げなければならないというように一律同様の方法を選択することに変更されています。また従来の、低下法や低価法という考え方はなくなり、両者を同一の収益性の低下として捉えるように変更されました。

適用時期

本会計基準は、平成20年4月1日以後開始する事業年度から適用されることとされているが、早期適用が認められています。

Ⅰ.棚卸資産とは

(1)棚卸資産の範囲

以下の2点に該当する場合

・商品、半製品、製品、原材料、仕掛品等の外形を備えた資産であること

・営業目的達成のため売却を予定する資産であること

また、販売活動及び一般管理活動において短期間に消費される事務用消耗品等も、棚卸資産に含められている。

棚卸資産の範囲に関しては、これまでの取扱いと何ら変更はない。

ただし、本会計基準の特徴は、「売却」という用語には、通常の仕入れた棚卸資産の販売という意味のほかに、活発な市場が存在することを前提として、棚卸資産の保有者が単に市場価格の変動により利益を得ることを目的とするトレーディングという意味を含むものとされている点にある。前者に対応する棚卸資産を「通常の販売目的で保有する棚卸資産」、後者に対応する棚卸資産を「トレーディング目的で保有する棚卸資産」と本会計基準では位置づけ、それぞれについて会計処理と開示が定められています。

(2)対象から除外される範囲

棚卸資産に該当せず、他の会計基準で取扱いが示されている売買目的有価証券や市場販売目的ソフトウェアについては、それぞれ「金融商品に係る会計基準(企業会計基準第10号)及び「研究開発費等に係る会計基準」(企業会計審議会)の定めによることとされています。

反対に棚卸資産に該当するものの、他の会計処理により収益性の低下が適切に反映されている場合には、本会計基準の適用はないと明示されています。例えば、建設業における未成工事支出金のように棚卸資産であるものの、工事損失引当金の設定対象とされ当該引当金の計上により収益性の低下の事実が適切に処理されている場合には本会計基準を適用しないという趣旨でといえます。言い換えれば、赤字工事物件の未成支出金について、工事損失引当金を計上すべきことが適切な会計処理であると考えられる場合にもかかわらず、仮に当該引当金を計上していないときには、原則どおり本会計基準を適用しなければならないということになります。

 

Ⅱ.通常の販売目的で保有する棚卸資産の会計処理

(1)簿価切下げの根拠

本会計基準では、固定資産の減損処理等における簿価切下げの考え方と同様、収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった場合に、回収が見込める水準まで帳簿価額を切り下げることが求められています。また、品質低下損、陳腐化評価損及び低価法評価損について、その発生原因は異なるとしながらも、収益性が低下しているという点では、違いがないものとして取り扱われています。この点、従来の考え方とは変わりました。

項目 会計基準適用後の処理 これまでの会計処理
①簿価切下処理
・正味売却価額の低下 原則適用 任意適用
・陳腐化 原則適用 同左
・品質低下 原則適用 同左
②強制評価減 N/A 原則適用

 

(2)会計処理

取得価額をもって貸借対照表価額とし、正味売却価額が取得価額よりも下落しているときには、正味売却価額をもって貸借対照表価額とすることとされています。

  • 正味売却価額
    • 正味売却価額=売価―見積追加製造原価―見積販売直接経費

売却市場において観察可能な市場価格に基づく価額

・売価  又は(売却市場において市場価格が観察できない場合)合理的に算定された価額

  • 正味売却価額に代わるもの

営業循環過程から外れた滞留又は処分見込の棚卸資産の場合には、正味売却価額に代えて、帳簿価額を処分見込価額まで切り下げる方法や、一定の回転期間を超える場合に規則的に帳簿価額を切り下げる方法により収益性の低下を反映。

  • 再調達原価

原材料等のように再調達原価のほうが把握しやすいことから、正味売却価額が再調達減価に歩調を合わせて動くと認められるときには、継続適用を条件として、再調達原価により、収益性の低下の判断及び簿価切り下げを行うことができます。

 

(3)洗替え法と切放し法の選択適用

継続適用を原則として、棚卸資産の種類ごと、簿価切下げの要因(物理的な劣化、経済的な劣化、市場の需給変化に起因する売価の低下)ごとに前期の簿価切下額の戻入れを行う方法(洗替え法)と行わない方法(切放し法)の選択適用が認められています。

なお、実務的にはどちらの方法もありますが、システムの状況などを勘案して、選択適用されることが多いと思われます。

(4)簿価切下げの単位

収益性の低下の有無に係る判断及び簿価切下げは、原則として個別品目ごとに行う必要があるが、継続適用を条件として複数の棚卸資産を一括りとした単位で行うことが適切と判断されるときには、その方法によることもできる。

(5)税務上の取り扱い

税務上は、これらの会計基準に配慮した形で、届出をしている場合には正味売却価額から見積販売直接経費を控除した金額を評価として行う評価損に関しては認容されますが、その他の評価損に関しては認容が実務的には難しいようです。

 

Ⅲ.通常の販売目的で保有する棚卸資産の開示等

(1)簿価切下額の表示

収益性の低下による簿価切下額は、原則として売上原価とし、それが棚卸資産の製造に関連して不可避的に発生するものであるときには、製造原価として処理することとされています。また、当該簿価切下額が、重要な事業部門の廃止や災害損失の発生のような臨時の事象に起因し、かつ、多額であるときには、特別損失に計上することとされています。つまり、従来は営業外や特別損失として棚卸資産評価損を計上することが多かったとも考えられますが、当該基準が出てからは原則売上原価として計上することが必要とされています。

 

本会計基準における取扱いとこれまでの取扱い
簿価切下げ要因の区分 製造原価 売上原価 販売費 営業外費用 特別損失
現行 品質低下

陳腐化

原価性あり
原価性なし
低価 N/A
著しい下落 N/A
本会計基準 品質低下・

陳腐化

N/A
低価 N/A

○:計上可能な区分、△:限定的な場合のみ、点線:明確に区分できないことを示す

 

損益計算書の表示における本会計基準と現行の会計基準における大きな違いのまとめ

・簿価切下額が営業外費用に計上されることが基準上明示されていない点

・簿価切下げ額が販売費に計上されることが許容されていない点

・著しい下落という理由により特別損失に計上される余地がない点

このため、これまで低価法を採用してきた場合でも、まったく影響がないわけではなく、低価法評価損を営業外費用に計上してきたケースでは、本会計基準適用後は、簿価切下額を売上原価の区分に計上することが求められるため、経常損益には影響がないものの、営業損益の数値は悪化する結果となる点に留意する必要があります。

 

(2)適用初年度の特例

原則的には、本会計基準を適用したことによる簿価切下額は売上原価の区分に表示されますが、適用初年度において、簿価切下額が多額に発生し、それが期首の在庫に係るものであるときには、特別損失に計上することができるとされています。なお、この場合には、洗替え法を適用していても、当該簿価切下額の戻入れを行ってはならないことに留意する必要があります。

 

(3)洗替え法の場合の表示

簿価切下額について洗替え法を適用する場合には、前期の簿価切下額の戻入額は、当期の簿価切下額と同じ損益区分に計上することとされています。つまり、原則売上原価で処理することになるといえます。

 

(4)注記等

簿価切下額(前期に計上した簿価切下額の当期戻入額があるときには、それとの差額)は、注記又は売上原価の内訳項目として独立掲記することが求められています。なお、当該金額の重要性が乏しい場合には、その限りではないとされています。。

 

Ⅳ.会計方針の記載

[平成18年9月中間期における会計方針の記載例]

重要な資産の評価基準及び評価方法

棚卸資産

ア. 通常の販売目的で保有する棚卸資産

総平均法による原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定)

イ.トレーディング目的で保有する棚卸資産

時価法

(会計処理の変更)

「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準第9号 平成18年7月5日)が平成20年3月31日以前に開始する事業年度に係る財務諸表から適用できることになったことに伴い、当中間会計期間から同会計基準を適用している。

これにより税引前中間純利益は、××百万円減少し~(以下省略)。

 

上記記載例においては、早期適用後の評価基準は、「原価法(貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定)」と記載されており、「低価法」とは記載されていない点に留意する必要があります。

 

 

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