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平成30年3月期有価証券報告書の改正の目玉 ~ 経営者の視点
非財務情報の開示充実について(「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に係る記載の統合と対話に資する内容の充実)
金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の提言を踏まえた改正として、当平成30年3月期決算に係る有価証券報告書より、従来の「業績等の概要」及び「生産、受注及び販売の状況」を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に統合した上で、記載内容の整理を行うこととなりました。
また、これあわせて経営成績等の状況の分析・検討の記載を充実させる観点から、以下の2点についての記載を求めることとなりました。
ア)事業全体及びセグメント別の経営成績等に重要な影響を与えた要因について経営者の視点による認識及び分析
イ)経営者が経営方針・経営戦略等の中長期的な目標に照らして経営成績等をどのように分析・評価しているか
つまり、これらを整理し具体的に説明するのであれば、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」という項目を新設し、その中に、従来の「業績等の概要」及び「生産、受注及び販売の状況」を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」記載するようになった。また、経営者の視点という新たな記載項目が増えたという点です。ここで、実務担当者としては、迷うであろう論点に関しての個人的な見解をまとめてみました。
なお、当該情報は6月10日時点での見解であるため、その後の開示情況により、一般的な状況も変わってくると思いますので、この点はご留意ください。
☆追加型、一体型 どっちの記載が良い?
金融庁のパブコメに対する考え方にもあるように、その記載方法には一定の裁量があります。そのため、従来型の記載内容を踏襲した上で、今回の改正で求められている経営者の視点の2項目を追加する方法により記載する方法と(今後は追加型と呼びます)、従来型の記載に経営者の視点を項目ごとに追加していく方法(今後は一体型と呼びます)の記載方法を選択することも考えられます。
これに関しては、実際に開示されている企業の記載方法を確認しても分かるように、実務的に圧倒的に多いのは、追加型だと思われます。その理由としては、シンプルですが、既に完成している計算書類や決算短信等との整合性を重視していくと、こっちの記載方法が、その内容を踏襲でき、書く時に簡単だと思われるから といった理由と考えられます。
ただ、実際に記載していくと、途中で気付かれると思います。
「あれ、同じ内容を単に繰り返して記載していない?」
そうなんです。計算書類にしろ決算短信にしろ一般的には、これら作成時に作っている経営成績や財政状態の分析は、経営者の視点も含め記載しているため、あらためて経営者の視点により分析をしろといっても、同じような内容になってしまいがちになってしまうのです。
では、一体型の方が書きやすいのでしょうか。個人的に、もし自分が担当者であればこちらを選択するかもしれませんが、実はこの場合、記載例等が充実していないという重大な問題があります。そもそも、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の考え方からすれば、記載例といった決まりきった記載方法ではなく、各会社の実態に合わせた記載を求めているのですが、そこはやはり日本人。前例の無い記載方法をするのには少し抵抗があるのではないでしょうか。そういう点を考慮するのであれば、一体型は記載順序や記載内容等を少し工夫する必要があるため、その点で少し悩ましいかもしれません。
☆記載順序は?
記載順序に関しては、色々な記載方法があると思いますが、既に公表されている有価証券報告書を分析するのであれば、追加型の場合には、おおよそ、以下のとおりになるのではと考えます。
〇財政状態若しくは経営成績の分析
⇒記載例にある項目を重視するのであれば、財政状態が先、計算書類等の既に作成している情報を重要視するのであれば、経営成績が先、というようになるのではないでしょうか
〇セグメントごとの分析
〇キャッシュ・フローの状況の分析
〇生産、受注及び販売の実績
〇経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
〇重要な会計方針の見積
〇当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
おそらく、こんな順序ではないでしょうか。他に記載方法もあるとは思いますが、書きやすさや、他の整合性を考慮するとこのような並びになるのではと考えられます。
では、一体型の場合どうでしょうか?一体型の場合、開示している会社が少ないため、どのような順序になるかは難しいですが、例えば、一つの方法を示すとすれば。
〇経営成績の分析 + 事業全体の経営者の認識及び分析
〇財政状態の分析 + 事業全体の経営者の認識及び分析
〇セグメント別の分析 + 経営者の認識及び分析
〇キャッシュ・フローの分析 + 経営者の認識及び分析
〇生産、受注及び販売の実績
〇重要な会計方針の見積
というような記載方法も一つとなるのではないでしょうか。なお、重要な会計方針の見積に関しては、一番最初に記載する方法も考えられます。
☆MD&Aはどこまで
今回の改正の趣旨は、あくまでMD&Aの視点で、投資家が求める経営者の認識や分析の状況を記載するということだと思いますが、実際にどこまで記載するのでしょうか?この点に関しては、制度趣旨を勘案すれば、かなり思い切って記載内容を変更することも考えられますが、現状の開示内容等を見ていると、実際の記載内容が従来と同様の記載内容の会社が多いと感じます。
これに関しては、金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」が考える記載内容が実務に定着するには、もう少し時間がかかるのでは というような状況のようです。
☆以外に忘れがちな記載義務項目
以外に忘れがちですが、今回の改正より「資本の財源及び資金の流動性に係る情報」が記載内容として義務化されました。これの記載箇所としては、様々な場所が考えられますが、追加型を前提にすれば、「キャッシュ・フローの状況の分析」、「経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」若しくは、独立記載項目として記載する方法が考えられます。
これに関しても、どの方法でも問題はありませんが、実際に書きやすいのは、キャッシュ・フローの状況の分析」の中に、当該内容を記載するのが書きやすいのではと、思われますし、ここに記載されているのが多いようにも感じます。
☆最後に
制度の改正趣旨としては、大幅な記載内容の変更を各企業に求めていくものとは、思い、実際に実務をされている方からすると、ごもっともな改正と思われる点ではあると思われますが、実務として積極的に記載内容を見直していく企業は、少ないように感じます。
これらが実務に定着するには、もう少し時間が掛かると思われます。なんといっても、ずーっとその方法で記載していたのですから。