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従業員持株ESOPにおける開示ー会社計算書類上の具体的留意点について

ESOP信託の会社計算書類上の具体的留意点

昨今になり取引が増えてきた従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(以下、当該ESOP信託と呼ぶ)の会社計算書類上の留意すべき点としては、特殊な自己株式と借入金ということになると個人的には考えますが、今回はその留意すべき具体的な項目などについて、解説していきたいと思います。

なお、本解説はあくまで、実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(以下、対応報告と呼びます)に例示されている取引を前提としております。また、解説の中の個人的な見解はあくまで、個人的な見解であることを十分にご理解ください。

 

1.(企業集団の)財産及び損益の状況の推移

1株当たり情報(1株当たり当期純損益及び1株当たり純資産)は信託口が保有している自己株式を控除して計算することが必要になります。そのため、丁寧に説明するのであれば、注書きとしてその旨を記載するか検討することが必要になります。

個人的には、他社の記載状況や本記載内容の趣旨を勘案すれば、特に必要ないのではと考えます。

 

2.主要な借入先の状況

当該記載箇所は、事業年度末において主要な借入先がある場合に記載することが必要になりますが、貸借対照表との整合性を重視し、信託の借入も記載に含めることがあります。

しかしながら、当該借入はあくまで特殊な借入となるため、これらを考慮して注書きとしてその旨を説明することが考えられます。

個人的な見解としては、当該借入の重要性を考慮し、検討することが必要と考えます。

 

3.株式の状況

3-1 大株主の状況

大株主の状況としては、もし信託口の株式が上位に入っている場合には、株主名簿の記載内容や同自己株式の性質を考慮しても、信託口として記載すると考えられます。

 

3-2 その他株式に関する重要な事項

当該記載箇所にも、当該ESOP信託の内容などについて記載するか否かを検討する必要があります。具体的な記載例に関しては、一般的な記載例にもありますので参照してください。

 

4.連結計算書類作成のための基本となる重要な事項に関する注記(重要な会計方針に係る事項に関する注記)

重要な会計方針等に関しては、ここに記載することが必要になりますが、後述する追加情報に記載されることから、特段ここに記載をする必要はないと考えます。

但し、対応報告にしたがい債務保証損失引当金等を計上している場合には、重要な引当金の計上基準(引当金の計上基準)に記載することが必要になります。

 

5.追加情報

関連取引に関しては、対応報告に記載の通り(対応報告より抜粋)、

(1) 取引の概要

(2) 第8 項(1)又は第14 項(1)において計上された自己株式について、純資産の部に自己株式として表示している旨、帳簿価額及び株式数

(3) 第3 項の取引において、総額法の適用により計上された借入金の帳簿価額

 

を注記する必要があります。この際、特段これらの内容を記載する注記箇所が無いため、追加情報として記載する必要があります。

なお、連結財務諸表作成会社においては、個別注記には連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができます。

 

6.株主資本等計算書注記~自己株式関連及び剰余金の配当に関する事項

まず、当該信託口保有の株式を自己株式として取り扱うか否かの判断が必要になりますが、これに関しては同対応報告において、

以下を株主資本等変動計算書に注記する。

(1) 当期首及び当期末の自己株式数に含まれる信託が保有する自社の株式数

(2) 当期に増加又は減少した自己株式数に含まれる信託が取得又は売却、交付した自社の株式数

(3) 配当金の総額に含まれる信託が保有する自社の株式に対する配当金額

 

と説明があることから、自己株式として取り扱うことになるとともに、上記の内容を注記することが必要になります。

 

7.金融商品に関する注記

金融商品に関する注記においては、金融商品の時価等に関する事項を記載することが必要になり、注書きとして金融商品の時価の算定方法について記載することが必要になります。ここで、一般的には当該ESOPはその期間が長期になることが多いという点と、自己の名義ではない借入金という特徴があることから、場合によっては、長期借入金の時価の算定方法に記載することが考えられます。

個人的には、当該借入金と時価の差額の重要性を考慮し、記載するか否かを検討することが必要と考えます。

 

8.1株当たり情報に関する注記

1株当たり情報を計算する際には、当該信託口保有の株式を自己株式に含めて計算することが、原則必要になります。そのため、対応報告17にも記載されている通り、控除する自己株式に含めている旨並びに期末及び期中平均の自己株式の数を注記することが必要になると考えられます。

なお、会社計算書類規則における1株情報は必ずしも有価証券報告書に記載が必要とされる1株情報と一致させる必要は無いため、記載を省略することも考えられます。

個人的には、事業報告等と有価証券報告書の一体開示の議論がある現状としては、記載する方が丁寧と考えます。

 

最後に

以上、従業員持会に信託を通じて自社の株式を交付する取引における会社計算書類上の具体的留意点について、個人的な見解も含め解説していきました。

該当する取引がある場合には、自己株に影響を与えるため、色々な項目に影響を及ぼすことになりますので、ご留意ください。

 

以上

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