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収益認識基準における有償支給の処理② 実務の影響や日産自動車の主張など

収益認識基準 有償支給の処理 実務への影響について

2021年4月より開始する事業年度から強制適用される収益認識基準、その中の個別論点として、実務的に非常に関心が高いのが有償支給の処理に関してです。①回では、当初の適用指針や説例での処理方法などについて、解説していきましたが、今回はこれらの処理に関する実務上の課題や日産自動車からの主張などについて解説していきたいと思います。

 

1.新基準適用による実務上の課題について

1-1.説例の(1)、有償支給資産譲渡時の処理の課題

前半で解説した説例でもあるように、有償支給の譲渡時においては、棚卸資産の移転を会計上処理しません。これらの処理をするためには、実務上、以下の点でいろいろな課題に直面することが想定されます。

①外注先にある在庫の基幹システム上の取り扱いをどうするか?

新基準の処理によると、外注先にある有償支給在庫も自社の在庫として取り扱われることになります。他方、従来はこれら外注先の在庫に関しては自社の基幹システム上は管理していないほうが多いと思われます。そのため、これらを一連で管理するためには、外注先での基幹システムの運用をどのように設計するか、また、これらの指導をどのように行うかなどシステム上も処理方法の見直しが不可欠となってくることになり、実務上、非常に負担になります。

②実地棚卸等をどのように実施するか

自社の資産ということになれば、財産管理上も実地棚卸の実施などが統制上も必要になってきます。また、実地棚卸においては同時性なども必要になってくるため、グループ全体での棚卸計画の立案が必要になったり、実地棚卸方法等に関して外注先に指導するなど、実地棚卸に関しても、大幅な見直しが必要になってくると考えられます。

 

1-2.説例の(2)、有償支給受入時の処理の課題

有償支給の受入時に関しては、加工賃部分を追加で棚卸資産として計上することが必要になります。これら処理をする際に、実務上、以下の点で課題に直面することが想定されます。

①本体部分と加工賃部分をシステム上、どのようにリンクさせるか。

説例では両者を区分して財務上計上していますが、棚卸資産受入時には、一体の資産であるため両者をリンクさせる必要があります。ロット管理などが財務システム上も適切に実施されていれば問題ありませんが、一般的には財務管理上までこれらをリンクさせるのは難しいと想定され、場合によってはシステムの改修が必要になることが想定されます。

 

②加工賃を明確に算定できるか。

説例においては、加工賃部分を棚卸資産として計上することで説明されていますが、そもそも、この加工賃は明確に算定できるのでしょうか。説例の方法によれば本体部分の価格が所与のものとして取り扱われていますが、有償支給材が自社生産による在庫であれば、その製造原価もそのときそのときで変動します。つまり、場合によっては実務的に説例の加工賃を算定することが極めて困難になることもあり、場合によってこれらの面でもシステムの改修が必要になる可能性があります。

 

2.実務会における意見

これらの実務指針が適用されれば、実務上も極めて重要な影響を及ぼしかねません。そこで、実務会でもこれに反発がされており、ここでは、有名な日産自動車の意見(平成29年10月) 内容について、ご紹介します。なお、解説等についてはあくまで個人的な意見ですのでご留意ください。

日産自動車より、企業会計基準委員会あてに、意見の概要としては、

“自社の有償支給取引は、金融取引でなく支配が実質的に移転しているため、一部の要件を満たす取引に関しては、棚卸資産を残さない特例を認めていただきたい。”ということですが、その根拠としては、以下の通りとしています。

・資産に対する支配の定義などから照らし合わせても、資産の移転はしている。

・取引自体の経済的実態に照らし合わせても、新しい処理をすると企業の財政状態等を適切にあらわさない。

・実務上の弊害があまりに大きい

・IFRS本文の趣旨と、説例は異なるため、IFRSの基本的概念とは反する細則主義の弊害をもたらす影響がある。

 

ということのようです。

これに対して、公益社団法人 日本証券アナリスト協会の企業会計研究会においては、

“有償支給取引などは、IFRS 第15 号の規定をそのまま導入するだけでは、実際の会計処理に大きなバラつきが生じる可能性がある。具体的な取扱いを示すことでバラつきを抑制できれば、財務諸表の比較可能性や理解可能性は確実に向上するであろう。特に、最近の不適正会計問題でも大きな焦点になった有償支給取引について、「有償支給取引を収益認識しないこと」を明確に示した点は、不適正会計の抑止に寄与するものとして大いに評価したい。”(2017年10月20日 公益社団法人日本証券アナリスト協会 企業会計研究会 “企業会計基準公開草案第61号”「収益認識に関する会計基準(案)」等について より抜粋)

とされています

 

どちらの意見も一理ありますが、個人的な意見としては、コストを無視して処理の画一化を目指そうとすると、国際的なコスト競争力もなくなりますし、そもそも企業会計基準の大前提においても、会計は“実務”を認めていることから、日産自動車の意見の方が、より現実的だと考えます。他方、東芝のように有償支給取引を悪用した不適切な会計処理がなされていたのも事実であり、これらを防止することも必要になります。

 

では、現時点での基準としての説明はどのようになっているのでしょうか。③回では、この内容等について、解説していきたいと思います。

③に続く

なお、関連記事は以下の通りです。

有償支給時の会計上の仕訳について

収益認識基準 有償支給の処理 ① 当初の説例等

収益認識基準 有償支給の処理 ③ 現状の適用指針等について

 

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