収益認識基準 有償支給の処理 ③ 個別財務諸表での代替的な取り扱いの追加など
2021年4月より開始する事業年度から強制適用される収益認識の個別論点として、実務的に非常に関心が高いのが有償支給の処理に関してです。①~②では、有償支給に関する当初の基準としての取り扱いや実務界での意見等を説明しましたが、最終回である今回③においては、現時点での適用指針の考え方などについて、整理していきたいと思います。
1.現時点での基準としての方針とまとめ
これらの経緯を経て、有償支給の処理に関しては公開草案では説例として説明していましたが、収益認識適用指針では説例を設けないとともに、個別財務諸表における有償支給取引に関する代替的な取り扱いが追加的に定められました(収益認識適用指針第104項、第177項~第181項)。
【収益認識適用指針より抜粋】
(有償支給取引)
- 企業が、対価と交換に原材料等(以下「支給品」という。)を外部(以下「支給先」という。)に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む。以下同じ。)を購入する場合がある(これら一連の取引は、一般的に有償支給取引と呼ばれている。)。このような有償支給取引では、企業から支給先へ支給品が譲渡された後の取引や契約の形態は、さまざまであり、会計上、企業が当該支給品を買い戻す義務を有しているか否かを判断する必要がある(第69 項参照)。
- 例えば、有償支給取引において、支給先によって加工された製品の全量を買い戻すことを支給品の譲渡時に約束している場合には、企業は当該支給品を買い戻す義務を負っていると考えられるが、その他の場合には、企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かの判断を取引の実態に応じて行う必要がある。
- 有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合には、企業は当該支給品の消滅を認識することとなるが、支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上されることを避けるために、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しないことが適切と考えられる。
- 一方、有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合には、支給先が当該支給品を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されているため、支給先は当該支給品に対する支配を獲得していないこととなる(第154 項参照)。この場合、企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しないこととなる(第69 項参照)。
- しかしながら、譲渡された支給品は、物理的には支給先において在庫管理が行われているため、企業による在庫管理に関して実務上の困難さがある点が指摘されており、この点を踏まえ、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができることとした(第104 項参照)。なお、その場合、第179 項に記載したとおり、支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上されることを避けるために、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しないことが適切と考えられる。
また、説例に関しても、平成29年7月20日公表の説例にあった、[説例32 有償支給取引]が、現状は削除されてなくりました。
☆最後に
適用する際の実務上取り扱いに関しては、会社ごとに異なるとは思いますが、とりあえずは全ての有償支給取引に関して変更が必要不可欠となる可能性は回避されたと感じます。ただし、東芝のような事例もあり、このような不適切な会計処理が出てくるようになれば、これらの処理方法に関しても、より一層厳しい処理と変更されることが余儀なくされると考えます。
今こそ、収益認識基準の基礎となっているIFRSの基本的概念である原則主義に則り、それぞれの取引実態に応じた会計処理を選択していくことが必要になってくるのではと、個人的には考えます。
以上
なお、関連する記事は以下の通りです。
有償支給の会計上の仕訳について
収益認識基準 有償支給の処理について ① 当初の説例等
収益認識基準 有償支給の処理について ② 実務上の影響